厚生年金保険料が給与から天引きされているにもかかわらず、勤務先の事業主が国に保険料を納付しなかったために未納扱いとなり、その分の年金を受け取れない人(特例対象者)を救済する法律(厚生年金保険の保険給付及び保険料の納付の特例等に関する法律)が昨年12月19日に施行された。
従来は、事業主から保険料の納付がなかった場合(被保険者資格の届出がなかった場合も)であって、保険料の徴収権が時効消滅となる2年を経過したときは、その記録は年金額に反映されない。
厚生年金特例法の成立により、年金記録の訂正の是非を審査する年金記録確認第三者委員会(総務省)が、申し立てした人を特例対象者と認定した場合には、年金記録が訂正(未納期間を保険料納付済期間に算入)され、年金額が計算し直される。ただし、特例対象者が事業主が保険料を納付していない事実を知っていたと認められる場合は、この措置の対象とならない。
厚生年金特例法では、未納事業主は保険料の徴収権が時効消滅となる2年を経過した後であっても保険料を納付できることになり、社会保険庁はその納付を勧奨する。すでに事業主が廃業しているときは、役員であった人に納付を勧奨する。事業主等が納付する場合、未納保険料に相当する額に厚生労働省で定める額が加算される。
社会保険庁は事業主等が期限までに未納保険料を納付しない場合は、事業主の名称または役員の氏名をインターネットで公表する。
公表してもなお納付されない場合は、国が税金で未納分を穴埋めして特例対象者の年金を支給することになる(その後も国が事業主等へ請求を行う)。
厚生年金基金および企業年金連合会の代行部分にかかる未納掛金ついても、厚生年金に準じた取扱いが行われる。
政府は、半年に一回、国会に特例対象者の年金記録を訂正したことや、特例対象者の件数、未納保険料の納付状況、国が補填した額などについて報告しなければならないことになっている。
年金記録確認第三者委員会は1月23日、厚生年金特例法の適用による記録の訂正を18件認め、総務相を通じて社会保険庁長官に斡旋した。
厚生年金保険料は、毎月の従業員の給与から天引きし一時的に預り金として処理され、事業主負担と合わせて社会保険事務所に納付する。
資金繰りが厳しい場合に預かった保険料を一時的に事業資金に流用し、それが常態化したケースや故意に着服してしまったケースなどが未納の原因とみられている。第三者委員会には、単なる事務処理ミスによる申し立ても相当数寄せられており、今後救済ケースは増える見通しだ。
厚生年金特例法は、すでに発生している未納保険料が対象で、今後発生するものは救済の対象とはならない。また、年金記録第三者委員会が廃止された日に法律は効力を失うことになる。
厚生労働省は、平成20年度から厚生年金保険料を納付していない企業を社会保険庁の職員が訪問するなど、未納対策を強化する方針を示している。勤務先に不審な点があるときは社会保険事務所に相談するなど、従業員個人の自衛策も必要となろう。