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社会保険の実務に役立つトピックス

   総報酬制実施後の負担と給付のしくみ

 平成15年4月から、厚生年金保険と健康保険に総報酬制が実施されます。なぜ実施されることになったのか。また、総報酬制によって負担と給付のしくみはどのように変わるのか、以下にみていくことにします。
 現在の厚生年金保険や健康保険では、標準報酬制のしくみにより保険料を負担します。具体的には、毎月の給与(標準報酬月額)からは一定率を乗じた厚生年金保険の保険料と政府管掌健康保険の保険料を労使折半で負担しています。

 また賞与からは、支払のつど10/1000を乗じた厚生年金保険の特別保険料を労使折半で負担し、8/1000(被保険者3/1000、事業主5/1000)を乗じた健康保険の特別保険料を負担しています。ただし、特別保険料は年金額には反映されていません。
 このようなしくみでは、?同じ年収でも賞与の割合が多い人ほど保険料負担が軽くなる?現在の在職老齢年金は、給与のみを基準として年金の支給停止額を計算しているため、同じ年収でも賞与の割合が多い人ほど停止額が少なくなる─といった賞与の多寡による被保険者間の不公平が生じてしまいます。そこで以上の問題点を解消し、公平な負担と給付のしくみにするために、平成15年4月から総報酬制が実施されることになりました。

●給与と賞与から同率で保険料を負担
 総報酬制実施後の保険料負担のしくみは、月々の給与からは現在のように標準報酬月額に対して保険料を負担します。
 また賞与からは、標準賞与額(賞与額1,000円未満を切り捨てた額で、支払のつど健康保険は200万円、厚生年金保険は150万円を上限)に対して保険料を負担することになります。
 保険料率は、総報酬制実施後も保険料収入が増大しないように、厚生年金の保険料率は135.8/1000(現在173.5/1000)に、健康保険の保険料率は82/1000(現在85/1000)に引き下げられます。
 以上の率を給与(標準報酬月額)と賞与(標準賞与額)に乗じた保険料を、労使折半で負担します。
 なお、総報酬制の実施に伴い特別保険料は廃止になります。
 また、現在では賞与を支払ったときは、事業主が「健康保険・厚生年金保険賞与等支払届」により被保険者全員に支払った賞与の合計額を社会保険事務所等へ届け出ていますが、総報酬制実施後は被保険者ごとの標準賞与額を届け出る必要があります。このため、「被保険者賞与等支払届(仮称)」という新たな様式により届け出ることになります(予定)。

●賞与も報酬比例部分の計算対象に
 総報酬制の実施後は、報酬比例部分の年金額の計算方法が変更になります。
 平成15年3月までの被保険者期間分の年金額の計算方法は、平均標準報酬月額や現在の給付乗率を用いるなど従来どおりです。
 平成15年4月以後の被保険者期間分の年金額の計算では、賞与も含んだ平均標準報酬額が用いられます。また賞与を含めても年金額が増額にならないように、現在の7.125/1000から5.481/1000(生年月日に応じた率も)に引き下げられた給付乗率を用います。
 このため、総報酬制実施前後に被保険者期間がある人の年金額は、平成15年3月までの被保険者期間分の年金額と平成15年4月以後の被保険者期間分の年金額をそれぞれ分けて計算し合計します。
 以上のように計算した年金額が、平成12年改正前の旧計算方法による年金額を下回る場合は、従前額が保障されます。

●賞与も含めて在老の支給停止額を計算(平成16年4月から)
 現在、在職老齢年金は給与(標準報酬月額)と老齢厚生年金を基準に年金の支給停止が行われています。
 総報酬制の実施後は、賞与も含めた総報酬月額相当額(受給権者が被保険者になった月の標準報酬月額と、被保険者になった月以前1年間の標準賞与額の総額を12で除した額との合計額)と老齢厚生年金を基準に年金の支給停止額を計算する方法に変更になります。 
 また、現在の支給停止額の計算で用いられている37万円と22万円の基準額が、それぞれ48万円と28万円に引き上げられます。新たなしくみの在職老齢年金では、支給停止額の算出に在老対象以前1年間の標準賞与額を用いることから、総報酬制実施後1年を経過した平成16年4月から適用されます。