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   17年度の年金額は据え置きに   
 
 総務省は1月28日の閣議に、平成16年平均の全国消費者物価指数が15年と同水準(12年を100としていづれも98.1)であったと報告した。このため、17年4月分から既裁定者の年金額は16年度と同額に据え置かれることになる。

 従来、年金の給付水準は5年に一度の法律改正で見直され、厚生年金は賃金の伸び率を再評価率に加味した賃金スライド、基礎年金は賃金や消費支出の動きなどを総合的に勘案して政策的に改定された。また65歳以上の既裁定者は物価変動に応じたスライド改定が行われている。この年金額の改定方法が、平成16年の年金改正でマクロ経済スライドを導入したことで大幅に変更された。新制度では保険料水準を固定し、その範囲内で給付額を自動調整するしくみになったため、頻繁な法律改正は必要なくなったが、その調整にあたっては、物価変動だけでなく労働力人口や賃金といった社会全体を支える力、つまり保険料負担能力の伸びに応じた新たなスライド率(年金改定率)が用いられ、厚生年金と基礎年金に共通して適用されることになった。

 給付調整のため年金額等に乗じる具体的な年金改定率は、新規裁定者と既裁定者により次のように異なっているが、マクロ経済スライド調整期間中は、国民年金額等には法定された基準額にこの改定率を乗じ、厚生年金には改定率を織り込んだ再評価率を改定して年金額改定に反映させる。これらの改定率、再評価率は毎年度、政令で示される。

 新規裁定者(68歳未満)の年金改定率は一人当たり手取り賃金の伸び率(名目手取り賃金変動率)、既裁定者(68歳以上)の年金改定率は物価上昇率(物価変動率)が用いられるが、マクロ経済調整期間中はスライド調整率として0.9%程度が差し引かれる。例えば物価が2%上がっても年金額は1.1%のみの増額という給付抑制が行われる。こうしたマクロ経済スライドの給付調整は、一人当たりの賃金や物価が上昇したときだけ行い、賃金や物価が下落したときは、通常の賃金スライド、物価スライドで年金額が改定される。

 こうみてくると複雑ではあるが将来を見据えたしくみであることは間違いない。ところが、このしくみが実施されることは暫くはないだろうといわれている。つまり、16年改正時に従来の物価スライドにおける年金額のマイナス1.7%(平成12年度△0.3、13年度△0.7、14年度△0.7)積み残しが問題となり、平成17年度以後の物価上昇により1.7%が相殺され、本来の給付水準に達したときからマクロスライドが実施されることになったためである。つまりマイナス1.7%を解消するまでの期間(物価スライド特例措置期間)中は改定率やスライド調整は行わず、改正前の平成16年度給付水準に据え置かれる(物価下落の場合はスライド引下げ)。仮に物価上昇が1%あってもマイナス1.7%のうち1%が解消されるだけで改正前の16年度額となり、その後、マイナス1.7%すべてが解消されたときにマクロ経済スライドの調整が始まり、新しい改定率や再評価率を用いて年金額が改定される。

 受給者の年金減額に抵抗があったことは確かだが、そのときのツケが今になって回ってきている。景気の低迷で1.7%の物価上昇がいつになるか目処はたっていない。それでも3月中には、本来の額について17年度の改定率や再評価率が政令で出される。

「月刊厚生年金」平成17年3月号掲載